スモーキーさと甘味の複雑な邂逅。
Ardbeg 2000-2020, 20Y. 56.4%
The Nymph “Casual Dress”
評価:★★★★ Recommend!
CP:☆☆☆
価格:★★★★★
ボトル紹介
T&T TOYAMAのニンフシリーズ第4弾ボトル
2020年9月27日に行われた「おうちでノマーレ」内で第3弾のグレンマレイと共に発表されたニンフシリーズ第4弾ボトル、2000年蒸留でバーボンバレル熟成のアードベッグ20年です。
ありがたいことに(本当にありがたい)何の前触れもなく突然サンプルが送り届けられたので、今回こうしてテイスティング記事を書いています。ちなみに突然送られた理由は単純に連絡を忘れていただけだそうです。
テイスティング
灰とフルーツの共演
まず言いたいのですが、よくボトリングしましたよね。LVMH傘下の蒸留所であるアードベッグを、発足1年に満たない日本のボトラーであるT&T Toyamaがですよ。それもシークレットアイラ表記ではなく、ティースプーンモルトでもなく、アードベッグのシングルカスクとしてですよ。これは凄いことです。
そしてシングルカスクのアードベッグを飲むのが久しぶりだったせいもあるかもですが、このボトルの味わいは僕の琴線に触れました。
灰を思わせるスモーキーさと共にキャンディのような甘さがしっかりと感じられる香味は、公式でも謳われている通り近年アードベッグの王道を行く味わいだと思いますが、それだけじゃない部分で触れました。
ちょっと評価高過ぎなんじゃないの?とか、お前高いボトルのサンプルをもらったからヨイショしてんじゃないの?とか、言いたくなる気持ちはとてもよく分かるんですが、それにハッキリ言ってしまうとちょっとだけ贔屓してる部分もありますし、もっと言うと嗜好品の評価は贔屓という風を最大風速で乗りこなしたときに最も高く跳ぶわけだしそれって別に嘘を書いているわけではないという大人のズルさがまさにこれ!と開き直ることもできるわけですが、とりあえず僕の言い分も聞いてください。
まずこのボトルはノージングの段階から灰っぽいスモーキーさと共に甘味の強さが分かる香味構成です。正直に言って、近年アードベッグでこれほど分かりやすく甘味が強いサンプルをボトリングさせてもらえたのは凄いことだと思うのですが、ここばかり強調しても先に進まないのでひとまず置いておきます。
全体の香味構成は一貫して煙たく、そして甘いです。モルトヤマ下野氏の公式テイスティングノートにある「灰を伴うふくよかなスモーキーさ、海水で洗ったカンロ飴」という表現は非常に適切だと思いました。
これをして「香味展開がぶれない」と言うこともできますが、言葉を変えれば「香味展開としてはシンプル」という表現もできるかも知れません。最初はちょっと抑揚がないなと、実を言うと僕も思ったんですよ。しかし、じっくりと時間をかけてノージングすると、一見シンプルに見えた香味の奥から熟成感を伴った複雑な甘さが立ち上がってくるのです。
香り、味わい、余韻までの繋がりのアウトラインを俯瞰的に見ると一見シンプル、しかし一つ一つを細かく見ていくとしっかりとした複雑さが内包されているのです。このことが僕の琴線に触れました。
甘さを紐解いていくと、それが非常に複雑だということです。熟成感を伴う麦芽感とフルーツ感がきちんと主体となりつつ、そこに樽由来のバニラを思わせる甘さなど、多くの要素が複雑に絡み合っていると、僕には感じられました。
もしこのボトルにケチをつけるのであれば、今はまだスモーキーピートと甘味の間には渾然一体と言えるほどの印象はないことです。複雑な香味を内包していると思うものの、テイスティングノートには渾然一体という言葉を使えませんでした。ただ、琴線に触れてしまった以上、味わいの評価をこれ以上下げることは出来ません。今でも美味しいボトルだと思いますが、甘味の要素が少し解けて、時間経過の中でスモーキーなピート感と更にまとまっていくだろうことを楽しみにしています。
価格だけを見ると、とりあえず安いボトルではありません。しかし同様のヴィンテージのアードベッグのシングルカスクとして見るのであれば事実として大健闘しているでしょう。CP評価を☆☆☆(価格と味わいの釣り合いが取れている)にしたのはそうした理由からです。
いずれにせよ、素晴らしいボトルをリリースしてくれてありがとうございます。
第一弾のリンクウッドから始まり、ここまでのリリースはかなりのハイペース。T&T Toyamaの今後のリリースにも期待が高まります。
そんなわけで先行評価は済みました。後は全国のバーで、皆さんがこのボトルの味わいをどのように感じ、どう楽しむのかが知りたいです。ただ、飲んで残念に思うようなボトルではないことは保証できますので。
テイスティングノート
香り:
しっかりとした香り立ち。最初から灰っぽいスモーキーさとべっこう飴を思わせる甘い香りが一緒に立ち上がり複雑。続いて穏やかな塩素感とミネラル、その奥から熟成感を伴う麦芽感とフルーツ感を思わせる甘さが上がってくる。完熟林檎、うっすらとパイナップル。そして再びべっこう飴。
味わい:
度数相当にしっかりとした口当たり。灰を思わせるスモーキーなピート感が炸裂した後、そこからじわじわと複雑な甘さが立ち上がってくる。ほんのりとした潮気、べっこう飴、完熟林檎、バニラ、奥に麦芽の熟成感。ボディは中程度からやや厚めで飲み応えがある。
余韻:
味わいの印象を引き継ぎ、力強いスモーキーさは余韻まで長く続く。灰をまとった麦の熟成感とフルーツ。ほんのりと樽由来のバニラ。ややドライ。