ハイランドパーク 1990 – 2018, 27年 50.8% シグナトリーヴィンテージ for TWH

既に美味しく、まだ伸び代もありそう。近年発売のシェリーカスクのシングルモルトとしては、久々の傑作ではないか。


HIGHLAND PARK 1990-2018, 27Y. 50.8% Signatory Vintage for The Whisky Hoop


評価:★ ★ ★ ★

CP:☆ ☆

価格:E


香り:

穏やかに始まり、徐々に濃密に。嫌味な要素がなく、非常に上質で複雑なシェリー香が主体。プラム、葡萄の皮、レーズンの甘さ、黒土、コーヒー、鞣し革、砂糖漬けのオレンジとチョコレート。奥から控えめに蜂蜜の甘さ。うっすらと醤油や紹興酒も。古酒のような複雑さを感じる(古酒感がある)。麦芽の熟成感と甘さは更に奥に隠れているが、軽くローストしたような香ばしさを伴いながら、ゆっくりと頭をもたげる。

味わい:

口当たりは度数相当に強い。樽由来の収斂を伴って暖かい印象で、濃密。ウッディさ、レーズン、黒土を思わせるニュアンスに凝縮感が出てくる。麦芽の甘さと熟成感も強くなり、僅かにミント。ボディは厚いが適度な抜け感がある。

余韻:

じんわりと長く、暖かい。アーシーさの中にスモーキーさが穏やかに現れる。灰、鞣し革。僅かな焦げ感。幾分ドライさが強くなる。


目次

The Whisky Hoop、2018年6月のスペシャルボトル

コアなウイスキードリンカーの間では非常に有名な日本の会員制ウイスキーボトラーであるThe Whisky Hoop(以下TWH)が2018年6月のスペシャルボトルとしてリリースした1990ハイランドパークです。TWHのオリジナルラベルとしてのリリースは、1990ボウモアに続いて2本目となります。

TWH会員は原則としてリリースされたボトル全てを1本以上購入することが義務付けられていますが、本数が少なかったり高額であるなどの理由で希望者のみの購入となるボトルがたまにあります。そうしたボトルはスペシャルリリースとして会員に告知されます。このハイランドパークもそうしたボトルの一本です。

既に全国のTWHバー会員のお店で抜栓されている他、2018年11月からは一般販売も予定されています。

私自身バーで飲んだ後、これはじっくり向き合ったほうがいいと感じたため、自宅で抜栓してあらためてテイスティングすることにしました。


シェリーカスクのシングルモルトとしては近年稀に見る完成度

サンプルティルティングの段階で提供元のシグナトリー社をして「Great」と言わしめたという逸話が示す如く、このボトルはシェリーカスク熟成のシングルモルトとして近年稀に見る完成度を誇る逸品だと思います。オフィシャルのハイランドパークでも最近ではなかなか見ないレベルのボトルではないでしょうか。

香りは葡萄、古い家具、コーヒー、チョコレート、黒土など、複雑で滋味深く厚みがあり、バーボンカスク熟成のシングルモルトでは得難いシェリーカスク特有の渾然一体感があります。

ボディも十分にしっかりとしていてリッチですが、香りから予想されるより僅かに抜け感があり、人によってはこれを僅かな過熟感として感じるかも知れません。しかしこんなことはもはや蛇足でしょう。飲みごたえは十分です。

評価にRecommend!が付けられなかったのは高額なボトルだったからというだけで、シェリーカスクの良さが凝縮された、一度は飲んでみる価値のある非常に美味しいボトルだと思います。


美味しいのその先へ…ハイランドパークらしさをどう評価するか

さて、ここから先はおそらくマニアックな話になってしまいます。

このボトルの味わいの素晴らしさは飲み手の口コミで瞬く間に広がりました。非常にコアな飲み手達は何度もこのボトルを飲み、時には自宅で抜栓して飲みます。そして考えるのです。

このボトルは素晴らしいボトルだ。しかし、もしハイランドパークらしさをスモーキーなピートやヘザーハニー感に求めるならば、このボトルはハイランドパークらしいと言えるか否か。

この話題を初めて振られたとき、僕個人としては正直「こんな美味しいボトルを飲んでよくそこを考える気になったな!」というのが本音でしたし、思わずそう言いました(笑)

そしてそう伝えると、美味しいのは間違いなく。その通りだよと、みんなが口を揃えて言います。

マニアの間でこういう話題が出るのはどういうときなのか、皆さんはお分かりになりますでしょうか?

はい、そうです。正解です。驚くような美味しいボトルが出た時ですね。

今回の疑問も、美味しいボトルを美味しいというだけで止めることをしない、ウイスキーに対する深い情熱と真摯な追求の結果もたらされた疑問なんですよ。

分かっていただけるでしょうか。

分かっていただきたいんですが。

ウイスキーを飲むという行為への真摯な情熱をなんですけども。


どういうことか説明します。

『シェリー香が見事で完成度も非常に高いこのボトル、では一般的にハイランドパークを特徴付ける要素だと言われているスモーキーさとヘザーハニー感はどれほど感じられるだろう?

このボトルにあっては上質なシェリー香にマスクされて、ヘザーハニーやピートは認識し難いのではないか。もしハイランドパークであると知らされなかったり、ハイランドパークではないと言われて飲んだら、他のシングルモルトだと認識してしまう可能性はないか。

そういう意味で、このボトルはハイランドパークらしさに欠けると言えてしまうのではないだろうか?

また逆に、このボトルをテイスティングして明確にハイランドパークだと感じたとするならば、それはどの要素に基づくものなのだろうか?

ここでもしヘザーハニーやスモーキーピートを指してこのボトルのハイランドパークらしさだとしているとしたら、それはそれらの要素がハイランドパークに当然在るものだと無意識的に考えたものであり、このボトルからではなく記憶の中のハイランドパークから拾っている可能性はないだろうか?

もしそうだとしたらそのテイスティングには改善すべき点があると言えないだろうか?』

長くなりましたが、ポイントとしてはこんな感じです。

分かっていただけますでしょうか?

分かっていただけなくても、美味しいボトルを前にしたマニア達の面倒臭さを察していただければ幸いなのですが(笑)


少しの認識の違いの中に隠された、テイスティング能力向上のヒント

僕はこの話題の後に自分のテイスティングノートを読み返して少し反省しました。どういうことかというと、僕は最近ウイスキーの味わいを楽しむことに主軸を置き過ぎていて、味わいを分析して記憶に刻み付けるという、面倒ですが非常に重要な作業を蔑ろにしていたんじゃないかと、振り返って思ったんですね。

僕は自分のテイスティングノートで穏やかな蜂蜜の香りとスモーキーな余韻を取っています。しかしシェリー香完成度にばかり目が行き、それ以外の部分はこのボトルを「ハイランドパークである」と無意識に受け入れてしまい、頭の中のハイランドパークに合うように香味を書き連ねてしまったのではないかと思ったのです。いや、たしかにこのボトルはハイランドパークなんですけどね?

分かっていただけますでしょうか?

この僅かな認識の差が生む、大きな違いというやつをですよ。

この認識のままだとブラインドが当たらないのは当然だぜ…と思いました。

断っておく必要があるかも知れませんが、ヘザーハニーやスモーキーピートを感じようが感じまいが、そこは重要ではないのです。そこは個人の感じ方によるものですから。しかし感じたのならどの辺りでどの程度感じ、それは基準として考えているハイランドパークと比較してどのような立ち位置なのかを認識しておく必要がありますし、感じなかったり感じ難いと思ったならそのことを特徴の一つとして明確にしておかなくてはなりません。

美味しいボトルであるほど飲んだ時の満足感が高いため、そうしたことに考えが至らないことがありますが、美味しいからこそ更に奥深くまで目を向けられるようになると、テイスティング能力を意識的に高めることができるようになるのではないでしょうか。

僕はヘザーハニー感もスモーキーさも、弱いながらではあるものの存在すると思いましたが、それをどう評価するかといった詰めが非常に甘かったなと思っています。精進あるのみですわ。


何だかんだ言うのは、このボトルが話題になるくらい美味しい証拠

こういうことにまで深く話が及んでしまうボトルは、実際そう多くありません。既に述べた通り、マニアがこうしたことを話題にするのは、ほとんど素晴らしいボトルが現れた時に限られるのです。

そして結局はみんなじっくりと味わい、美味しい美味しいと言いながらボトルが空になるまで飲むのです。

分かっていただけますでしょうか。

美味しいボトルほど、なくなるのが早いということが、ですよ。

そんな素晴らしいモルトを現在進行形で飲めることに感謝をしつつ、楽しみながら今後の香味変化を見ていきたいと思っています。

これは本当に贅沢な飲み方ですね。


参考にすべきテイスティングノートのリンクを貼っておきます

さて、上記を踏まえた上で、テイスティングにおける更なるステップアップを目指したいと考えている方のために、このボトルの出自やテイスティングノートで参考になるであろうブログ記事を2つご紹介します。

1つは「ストイックなドリンカーの日々」の松木氏( http://www.sakedori.com/spn/s/matsuki/blog/137772.html )、

もう1つは「モルト道〜ヘビーなドリンカーの備忘録〜の大島氏( https://ameblo.jp/zgmf-x10a19730730/entry-12389966771.html )のテイスティングノートです。

私自身飲みながらどちらの記事も非常に参考にさせていただきました。

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