失われた味になってしまうのだろうか。
GLENGLASSAUGH 1972-2014 41Y. 50.6% cask#2114, sherry butt, 582bottles “Rare Cask Release”
評価:★★★★☆ Recommend!
CP:NR
価格:VE
香り:
濃厚で積極的な香り立ち。赤肉メロンの果肉と皮を思わせる濃密な甘さがまずやってくる。その後は非常に複雑で、糖度の高い葡萄ジュースの甘さ、僅かにオイリーなニュアンスと、レーズンを思わせる凝縮した葡萄の甘さ、奥からは熟成感のある麦芽香も感じられ、山盛りのフルーツの盛り合わせを思わせる渾然一体としたエステル香も。メロンシャーベットとアイスクリーム、僅かに牧草。上質なミルクチョコレート。探せば探すほど様々な香味が出てくる。
味わい:
ここでも濃密。熟成感のある麦芽の甘みと旨みが感じられるが、それ以上にメロンの甘さが口の中に広がる。香りの要素を全体的に力強くしたような印象。
余韻:
香り、味わいの要素を共に引き継ぐ。シェリーカスク由来の凝縮された葡萄感と、ビターチョコレートを思わせる心地よい収斂。メロンの甘さは尚も続き、僅かなスパイシーさと合わさってチリ・チョコレートのような印象も。余韻は非常に長い。
グレングラッサの長期熟成原酒の味わいを比較的潤沢に楽しめたのは2014年頃までの話だと思うのですが、もしかしたらこの味わいは、今後は失われた味として扱われてしまうのではないかと思っています。
そう思えるほどに、このグレングラッサは、ここ最近では全くお目にかかることの出来ない、メロンを強烈に思わせるような、素晴らしく芳醇で複雑な香味を持つウイスキーです。
1875年に創業した歴史あるグレングラッサ蒸溜所は、1986年に一度閉鎖されています。長い閉鎖期間を経た後の2008年12月4日に再びニューメイク・スピリッツがスチルから流れ落ち、そこから3年を経た原酒が2012年に「グレングラッサ・リバイバル」として発売されました。蒸留再開後の新しい原酒が今後の歳月の中で熟成を通してどのような香味を獲得していくのかは、正直なところ何も分からないというのが私自身の率直な感想です。蒸留再開後の原酒が今回のボトルと同じくらい長期熟成されたものに関しては、もしかしたら自分が生きている間には飲めないかも知れません。
そんな訳で、1972年に蒸溜されたこのウイスキーは、蒸溜所閉鎖前に蒸溜された貴重な原酒ということになります。現時点においてグレングラッサの長期熟成原酒の持つ味わいが失われたものになるかも知れない原因はここにあるわけですが、このボトルは長い熟成で原酒が獲得した複雑な香味と、熟成に使われたシェリーカスク(シェリーバット)から得られた芳醇でこれまた複雑な甘みが、ほとんど奇跡に近いバランスを保っている、かなり稀有なボトルだと思います。私はそれほどたくさん1972年蒸留のグレングラッサを飲んでいる訳ではないのですが、このボトルは自分史上では最高に近い完成度を持っている感じるグレングラッサです。
グラスを買えると面白い
さて、私は基本的にウイスキーをテイスティングする際のグラスはグレンケアンで統一していますが、このウイスキーに関してはリーデル社から発売されている「ブルゴーニュ・グラン・クリュ」という大振りなグラスでも合わせてテイスティングをしています(写真でボトル左の大きなグラスがそれです。テイスティングノートはボトル右のグレンケアンで行ったものを記載しています)。
リーデル社のブルゴーニュ・グラン・クリュというグラスをウイスキードリンカーの間で広く知らしめたのは、whiskylinkを主催しているタケモトカツヒコ氏の功績だと思っていますが、とにかくグラスを変えるだけでこのウイスキーの持つ瑞々しく熟したメロン果肉のような甘い香味が一気に引き出され、飲んでいて本当に幸せな気持ちになります。このグラスを使用するとオイリーさや牧草のような印象はほとんど感じられなくなり、グラスがウイスキーの香味に与える影響は想像以上であると思わざるを得ない体験が出来ると思います(リーデルのグラスは、ごく稀にセールを行っているようで、私はその際にウイスキーを通じて知り合った方に頼んで入手しました。定価だととても高額なグラスなんですよね。ですが買って良かったと思っています。壊れやすいのでかなり大切に扱っています)。
自分の手持ちのお酒を如何に美味しく飲むかを追求していくことは数あるウイスキーの楽しみ方の一つだと思いますが、様々にグラスを変えながらウイスキーの香味の変化を楽しんでみるというのはそうした追求の方法の一つです。フードマリアージュと並んで、やる価値のあるものの一つだと思います。
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