賛否は別れるだろう。ベリー、ブリニー、少しの古酒感、そしてフローラル寄りのライトパフューム
SPRINGBANK 1993 (-2016 or 2017), 23Y. 52.2% Masterpieces by Elixir Distillers (The Whisky Exchange)
評価:★ ★ ★
CP:☆
価格:★ ★ ★ ★ ★
香り:
甘く、しっかりとした香り立ち。ラズベリー、穏やかなブリニー(ミネラル感のある塩気)。ややワクシーで、そこから少し遅れてドライフルーツや柑橘の皮、それらに伴いやや古酒のニュアンスも。奥のほうから甘い麦芽の熟成感が控えめに現れる。シェリーカスク由来のクレヨン感が僅かに感じられる。
味わい:
度数相当のしっかりとした口当たり。ブリニーさとワクシーさがやや強くなる。続いてベリー、その後にスミレの花を思わせるフローラルさ。麦芽感はやや濃密さを増すが、クレヨンを思わせる樽由来の香味も僅かに強くなる。ボディは厚め。
余韻:
ブリニーさを引き継ぎ、穏やかなベリー感と共にスミレの花を思わせるフローラルさがやや強くなる(ライトパフューム)。ドライさは度数相当で、余韻の後半にかけてやや長く持続する。
マスターピース・シリーズ第7弾
マスターピース・シリーズは、世界的に有名なウイスキーコレクターのスキンダー・シン氏が率いる酒類総合商社The Whisky Exchange(以下TWE)によって、2012年から毎年リリースされているシリーズです。今年から取り扱いがTWEの別名義ボトラーであるElixir Distillersに変わりました。
現在までにロングモーン1978、ボウモア1993、カリラ1996、クラインリーシュ1996、ブルイックラディ2002、ラフロイグ1996がリリースされています。
特に第2弾としてリリースされたボウモアは、ビッグヴィンテージとして名高い1993年蒸留のボウモア史上1、2を争う名品として、飲み手の間で語り継がれています。
そういう経緯もあって、ウイスキードリンカーが毎年そのリリースを注視しているマスターピース・シリーズですが、2018年のリリースには1993年蒸留のスプリングバンクが選ばれました。
熟成樽はリフィルシェリーバット、熟成年数は23年です。蒸留年とリリース年との計算が合わないため、ボトリングしてから1年以上寝かされていたことになりますね。
ちなみに今回のボトルはマスターピース・シリーズとしては過去最高額です。
良くも悪くも、どこをどう見て、どう味わうか
このボトルには(ソーピーは流石に言い過ぎだと思いますが)ある程度のパフューム香があります。
また、最近のスプリングバンクのオフィシャルボトルはピートが強めで麦芽要素に濃密さがありますが、このボトルはピートがあまり強くなく、麦芽要素の主張も控えめです。スプリングバンクっぽくないわけではありませんが、最近のオフィシャルボトルとは傾向の異なる味わいだと思います。
しかし個人的には、全体として見れば要素も豊富で飲み応えもあり、見どころのあるボトルだと思っています。
香りにはシェリーカスク熟成のスプリングバンクに感じられてほしいベリー感と、スプリングバンクの酒質にあってほしいブリニーさがバランス良く感じられ、その意味で基本的にほしい要素はしっかりと押さえられていると感じました。
また、静置しておくとベリー感の奥から古酒を思わせる一体感のあるニュアンスが感じられ、ここは個人的に非常に評価できる部分だと思っています。
シェリーカスクの影響は良し悪しが混在していて、ベリー感とともにクレヨンを思わせるべったりとした印象が僅かに感じ取れます。しかし概ね全体のバランスに影響しないレベルに落ち着いていると思います。
さて、しかしパフュームだ
今回の記事は全体的に歯切れの悪い感じが否めませんが、その原因は既に述べたように、このボトルには強くはないにせよ「スミレの花のようなフローラル」「ライトパフューム」といった要素があるからです。
香りではあまり目立たないかも知れませんが、口当たりと、特に余韻で割と分かりやすいと思います。
パフューム香が多くの飲み手に倦厭される理由は、シングルモルトに備わる繊細で様々な香味を覆い隠し、香味の複雑さを奪い去るからです。
しかし、このボトルにあってはパフューム香が香味全体に悪影響を与える程には強くなく、苦手な方でなければ十分に楽しめる仕上がりなのではないかというのが、私の個人的見解です。
ただ、特に経験のある飲み手からの評価が低いものであったとしても、そこに異論はありません。
シングルモルトにおけるパフューム香とは、そういう扱いを受けるべき香味だと思うからです。
是非とも飲んで判断してほしい
この記事を書き終わり、私が最も懸念しているのは、このボトルの良し悪しを飲まないうちに判断されてしまうことです。
私はスプリングバンクでのライトパフュームを経験したことがなかったため、今回の味わいにはちょっと驚きましたが、味わいの評価は低く付けていません。★★★という評価の意味は「美味しく、味わいの要素に一つ以上の長所がある」というものですが、これは私自身がパフューム香に対して「ある程度までなら香味のアクセントとして許容する」というスタンスを取っていることと、パフューム香よりも古酒感やベリー感などの好ましい要素を先に取ったことの二点によるものだということを補足しておきます。
パフューム香の苦手な方にもオススメできるかと言われると全くそんなことはないものの、シングルモルトの持つ香味の多様性や、それを求める飲み手の嗜好の多様性を知る手掛かりにはなるだろうと思っています。
その意味で、バーなどで見かけたら一度味わってほしいボトルです。
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