驚くほど清澄な麦芽香。ウイスキーの美味しさが熟成感だけではないことを思い知らされた。
評価:★ ★ ★ ★ ☆
CP:NR
価格:NR
ARDBEG 1973 – 1988 57% SAMAROLI Fragments of Scotland
香り:
しっかりとした香り立ち。塩素と金属を感じる独特のピートをまず感じる。すぐにキラキラとして麦芽の甘み、ほんのりとローストナッツ。ピート香に鼻が慣れてくると、雑味のない麦芽の甘みが前面に現れる。その後に奥からしっとりとしたエステル香。オレンジ、洋梨。他にザラメやべっこう飴のニュアンスも。
味わい:
度数相当のしっかりとした口当たり。樽感は非常にプレーンで、滋味深いピートと相まって麦芽の甘みがストレートに感じられる。香りの要素を引き継ぎ、ボディは厚い。
余韻:
滋味深く甘やかなエステルと麦芽の熟成感、すぐに穏やかだが金属感や塩素のニュアンスを残しながら広がるピート香。絡み合いながらじんわりと続いていく。
サマローリからリリースされたアードベッグ。フラグメント・オブ・スコットランド(通称フラグメント)と銘打たれた、伝説的なオールドボトルです。
飲んだのは今回が初めてだったのですが、しっかりノートを残そうと意気込んで分析的なテイスティングから入ってしまったため、最初はかなり混乱しました。
混乱の原因として、アードベッグ蒸溜所は80年代に生産を一時休止し、90年代に入ってから再開されたという経緯があることが挙げられると思います。現行ボトルとの連続性を考えながら飲もうとすると、あまりの香味の違いにこれが本当にアードベッグなのかという疑問すら湧いてしまいます。
ただ、はっきりと言ってしまってこのボトルは本当に美味しいです。
プレーンな樽感というのはこういうことであり、麦芽の甘さや旨みをストレートに感じられ、塩素や金属を感じさせる独特のピート香は控えめながらも寄り添うように主張します。
14-15年熟成になるわけですが、麦芽の甘みの清澄さは見事というほかありません。熟成年数的に過熟な要素が出ていないのはもちろんですが、未熟な要素も一切なく、ピートの作用もあるのかも知れませんが、15年という熟成期間でここまでしっかりとした香味のバランスには文句のつけようがないと思います。
個人的に、アードベッグは70年代黄金期と近年のオフィシャルボトルとの香味の間に大きな溝が引かれている印象で、ピート感に若干の共通点を見つけられる(かも知れない)ものの、基本的には『失われた味わい』だと捉えて良いものだと感じました。
しかし、こうしたボトルを飲みながらこのボトルの往年の姿を想像すると、アードベッグに限らず現行のボトルの中にも同じくらいのポテンシャルを秘めたボトルを探す一助になるのではないかと感じています。
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