ブナハーブン 1978 – 2019、40年 51.6% MASAM

俺はお前を許さないが、考えなくてはならないことは別にある。

BUNNAHABHAIN 1978-2019, 40Y. 51.6% MASAM


評価:★★〜★★☆

CP:☆

価格:E


ボトル紹介

目次

故サマローリ氏の残した樽から奥様が選定。

故シルヴィアーノ・サマローリ氏。ウイスキーボトラー界の巨人。伝説的なボトルの数々をリリースした後、一時業界から引退しましたが、2016年「MASAM」というボトラーを立ち上げてカムバックを果たします。精力的にボトルをリリースする意欲を見せていた矢先の2017年に舞い込んだ氏の訃報は、あまりに突然の出来事でした。

このボトルはそのMASAMからリリースされた1978年蒸留ブナハーブンのシングルカスク、シェリーバット熟成の40年ものです。ネックストラップにはサマローリ氏が遺した樽からサマローリ氏の奥様が選定してボトリングしたと記載されています。


開けるに至った経緯

熟成期間40年でありながら51%以上を保った、70年代シェリーブナハーブン」という魅力的過ぎるスペック!こんなの絶対にフルーティーに決まってる!と、かなり頑張って購入し、人生のハレの日に抜栓しようくらいの気持ちで厳重に保管していたある日の出来事を掻い摘んで話しますと、


という流れになります。


テイスティング

枯れきってしまっている?

このボトルは残念ながら僕が当初期待していたような味わいではありませんでした。とりあえずしばらくは封印し、経年変化を期待したいと思います。

良い部分はあるので、先にそこを記載したいと思います。まず、かなり奥のほうに篭ってはいるものの、重たいフルーツ香および年数相当に複雑な熟成感が、かなり薄っすらとですが、感じられます。今後、もしかしたら、ゆっくりと香味が開いてくる…みたいな感じで、ワンチャンある、かも、知れません。

現状、良いところは以上となります。

対して、残念な部分は割とたくさんあるのですが、最大の原因はこの原酒が既に枯れてしまっていることではないかと思います。

以前「熟成が進むにつれて香りの複雑さとボディの力強さはトレードオフになりやすい」と書いたことがあるのですが、おそらくこの原酒は熟成のピークを完全に越えてしまっており、ボディだけに止まらず、香りまで失われてしまっているように感じられます。

付け加えると、おそらく長過ぎた熟成期間中で原酒の酸化も必要以上に進んだのか、発酵した干し草のようなすえた香りが残ってしまっています。さらに致命的なのは麦芽感の厚みがあまりない、もしくはあまり残っていないことです。おかげで度数からは想像出来ないくらい、香りも味わいもスッカスカです。

トドメを刺す気がありますので更に言うと、シェリーバット熟成とのことですが間違いなくリフィル以降、もしかしたら樽成分の抽出がほぼ見込めないような3rdフィル以降のシェリー樽を使っているのではないかと思うくらい、樽感がほとんど分かりません。ほぼ完全にプレーンだと言って良いでしょう。

味わいとしてはアンノック10より熟成感で勝りますが香味バランスで劣る、と言った感じです。

定価に20倍近い開きのある超マイナー蒸留所のオフィシャルスタンダードの普及品と味わいで競い合っている時点で問題外であり、現時点において私はこのボトルを許しません。


目利きの樽選びから外れたボトルだったのではないか。そして現代の目利き達について。

故サマローリ氏の目利きの確かさは、ウイスキー業界とボトルの近代史を少しでも知ろうとした人間であれば、異論を挟む余地のないところだと思います。

そして今回のブナハーブンはサマローリ氏が購入した樽から詰められたものかも知れませんが、サマローリ氏本人がボトリングしたものではありません。

おそらくですが、伝説的な目利きであったサマローリ氏ですら、購入した樽は当たりばかりではなく、最終的には氏の眼鏡に叶わずお蔵入りした樽が、相当数あったのではないでしょうか。

全ては推測ですが、もしサマローリ氏が健在だったなら、氏はこの樽をボトリングしなかったかも知れません。

この推測を踏まえて、現在と未来のボトラー事情について考えてみました。

ウイスキーブームに沸き、ボトラーの価格が高騰している現在、ボトラーズのウイスキーを販売するに当たって、おそらく優れた目利きが世界的に求められています。そんな中で日本は、少なくともアジア市場にあっては他より一歩先を歩んでいると思います。

代表的な人物としては、信濃屋でバイヤーを務め、「北梶フレーバー」という言葉を国内の飲み手に浸透させるに至った北梶氏です。明確な美学に基づいた審美眼は、アジアのみならず世界的に一目置かれています。

そして日本のボトラーは信濃屋だけではありません。スリーリバーズ、ウィスクイー、エイコーン、キンコーなど、どのインポーターも審美眼を磨きながら、日本にボトルを輸入してきてくれているように思います。

目利き本人がボトリングしなかったブナハーブンを飲み、現在の各種ボトラーリリースについて鑑みると、「切磋琢磨しながら、自身の眼でボトルを選び、現在に問う」というバイヤー各自、インポーター各社の姿勢が、今も昔もウイスキーブームの根幹を支えているのではないかと思うのです。

真摯な姿勢で選ばれたボトルには訴求力があります。何をどう訴求するかは様々なのですが、何かしら訴えかけてくるものがあるのです。

そうした部分に目を向けていきたい、と、このブナハーブンを飲みながら、考えた次第でした。

このボトルを飲んで「いまいち…」というのは超簡単なのですが、「世界的な目利きでも当たりばかり引けるわけではない」ということ、それを踏まえて「現代のインポーターは、自身の感覚を研ぎ澄ませながら、国内にボトルを輸入してくれている」ということに思いを馳せると、こうした精神が息づいている限り、ウイスキーの未来には少なくとも希望が持てると思ったんですよねー。

数年後再テイスティングした時に良くなってるといいな…!!!


テイスティングノート

香り:

かなり穏やかな香り立ち。フルーツ香、熟成感ともにあるのだが、かなり篭(こも)っていて前に出てこない。発酵した干し草のニュアンス(抜栓直後は特にはっきりと感じられる)、非常に微かなレーズン。

味わい:

度数を感じさせない滑らかな口当たりだが、これは枯れているからではないか。むしろ本当に50%以上あるのか疑わしくなるくらい、味わいは全体的にのっぺりとして香味が弱く、樽感も非常にプレーン。枯れ感のあるボディで、香味も抜けてしまっている。

余韻:

穏やかなドライさと収斂。僅かに水で溶いたようなレーズン感。ほんのりと古酒感。


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