バランタイン 17年 43% 陶器ボトル(1980年代流通)

細部の積み重ねによる足し算と、偶然性の掛け算が織り成す構築の美学、17年の年代判別、陶器かガラスか。

Ballantine’s 17Y. 43% (1980’s)


評価:★ ★ ★(ただし状態による)

CP:☆ ☆ ☆ ☆

価格:☆(オークションなど)


香り:

穏やかに始まるが、徐々にボリューム感が出てきてしっかりとしてくる。熟した果実のエステル香。シナモンとアップルパイ、オレンジケーキ、穏やかにレーズン、グラスの縁に遠くから皮のエキスを飛ばしたかのようなほんのりとしたレモンの酸味。樽由来の穏やかなバニラ、奥からは麦芽の甘み。徐々に炭や石炭のようなスモーキーさも穏やかに現れる。変化に富み、多層的。しかし長く置いておくと香味は少しずつ弱くなっていく(おそらく経年によるもの)。

味わい:

度数相当の柔らかさだが、ボディは比較的厚い印象。炭や石炭を思わせる繊細なスモーキーピートとともに、麦芽香がまず広がる。次いで熟したフルーツ香。一体感がある。

余韻:

穏やかで暖かく、味わいから継ぎ目なく以降し、味わいの要素を引き継ぐ。ナッツ、籾殻、ザラメ、麦芽。


銘酒と誉れ高いバランタインは、1869年から現在に至るまで脈々とリリースを続けている歴史あるブレンデッドウイスキーです。

今回のボトルは1980年代に流通していたとされる陶器ボトルの17年です。陶器の色は黒、赤茶、青と、何種類かあるようです。

17年表記ですが、当然これは最低熟成年数表記で、それ以上に熟成された原酒もしっかりと使っている印象です。麦芽香とフルーツ香はノージングの度に様々に入れ替わり、久しぶりに飲みましたがすっかりハマってしまったため、今回テイスティングノートを書くことにました。


味わいは全体的に円く穏やかながらも非常に多層的で、飲み心地にも優れています。ブレンデッドウィスキー全般に言えることかも知れませんが、このボトルも突出した個性を楽しむというよりは穏やかな香りに潜む複雑さや滑らかな口当たりを、まずは楽しむべきボトルだと思います。しかしながら没個性的にならず、麦芽、フルーツ香、スモーキーピートときちんと主張があるところが「時の試練に耐えた風格」とも言うべきもので、特に素晴らしい点だと思います。ざっくり言うと美味しいです。

以前は積極的に取らなかったのですが、今回あらためて飲んでみて炭や石炭を思わせるスモーキーなピート香を繊細ながらも拾い、もしかしたらこれは「バランタイン魔法の7柱」の中の、当時のアードベッグに由来するものなのかな?と、勝手に考えた次第でした。この当時のボトルにアードベッグが使われているかどうかは知りませんが。(逆算するとアードベッグ休止前なので可能性としてはゼロではないでしょう)

シングルモルト、特にシングルカスクには引き算の美学がありますが、こうしたブレンデッドウイスキーには精緻な計算に基づく足し算、または偶然性の掛け算が織り成す構築の美学があると感じます。どちらも意味があり、良いものです。


今から30年以上も昔のボトルなので一般的な酒販店で見かけることはまずなく、主な入手先はネットオークションやリサイクルショップになります。ただ、この陶器ボトルはだいたい国内オークションでも2000-5000円以下で入手可能で、昨今のモルトブームによる各ボトル値上がりの波の中では非常にお値打ちな実売価格となっています。

ただしオールドボトル故の状態差はどうしてもあるので、博打の要素は排除し切れません。(そういった理由で、評価にRecommendを付けたり、CPを☆5つにしたりできません)

歴史と人気のある銘柄なのでオールドボトルでも相当な数が流通していたとはいえ、数や飲み頃には限りがあります。飲んだことがなく、気になっているならば、今のうちに入手してみてもいいのではないかと、個人的には思います。


バランタイン魔法の7柱について

“The Scotch”という異名が今も売り文句として残るバランタイン17年ですが、もう一つ有名な言葉に”バランタイン魔法の7柱”というものがあります。

この言葉は1937年、バランタイン17年が第2代マスターブレンダーであるジョージ・ロバートソンの手によって誕生した際に生まれたもので、ブレンドに用いられた数多くの原酒のうち、味わいの中核を担った7つのシングルモルトウイスキー原酒(キーモルト)を指して使われました。その7つはスキャパ、プルトニー、バルブレア、グレンカダム、グレンバーギ、ミルトンダフ、アードベッグです。

ただしこの7柱は現在そのまま通用するものではなく、その後、蒸溜所の休止や閉鎖、親会社の再編などを経て、時代毎のマスターブレンダーによってキーモルトの変遷も自然と行われたようで、現在のバランタイン17年は、スキャパ、ミルトンダフ、グレンバーギ、グレントファースの4つをキーモルトとしつつ、40種を超えるモルト原酒とグレーン原酒をブレンドして作られているそうです。(公式サイト:http://www.ballantines.ne.jp/products/17years.html

バランタイン17年の簡単な年代判別について

写真は1970年代流通ボトル。右が日本、左がアメリカ回り。中央に描かれた紋章の旗が青と赤に分かれている70年代流通のボトル(赤青)。向かって右が明治屋輸入の日本回りでVERY OLD表記(70年代後期)、左がアメリカ回りでVERY OLD BLENDED表記(70年代前期)と、紋章以外の差異もある。

数あるオールドボトルの中でも、バランタイン17年はざっくりとした年代判別だけなら非常に簡単に行うことができます。

とりあえず紋章だけを見れば良いのがその理由で、60年代以前は白地に赤単色の印刷(赤白)、70年代は紋章の旗が青と赤(青赤または赤青)、80年代は紋章の旗がどちらも青地(青青)のものと今回の陶器ボトルだと思ってもらえれば大きな間違いはありません。90年代以降(ラベルが1枚)から現行ボトル(ラベルが2枚で下段が金)に至るまでの間にも細かい変遷はあるっぽいですが、そこは詳しく調べていないため今回は割愛させて下さい。

80年代ボトル。ラベルに描かれている紋章の旗がどちらも青い。
赤白。60年代流通。LIQUEUR BLENDED表記。in use for over XXX yearsという表記は、XXXに入る数字によって、1827年の創業からどれくらいの年月が経っているかを推し量ることが出来る非常に重要な年代判別基準。

陶器ボトルか、ガラスボトルか。

80年代のバランタイン17年には陶器ボトルとガラスボトルがあることになりますが、仮に入手したいと思ったとして、どちらを入手するのが良いかは悩ましいところです。

陶器ボトルがガラスボトルと比べて優れている点は、何といっても光による劣化に強いことだと思います。今のところ今回と同じような陶器ボトルで、ヒネ香(光が長時間当たることで生じるオフフレーバー)のあるボトルに出会ったことはありません。ガラスボトルのバランタインは70年代も80年代も一定の割合でヒネ香のあるボトルに出会うため、そういう意味では個人的に陶器ボトルの中身の状態については割と信頼を置いています。

ただ、陶器ボトルの最大のデメリットはガラスボトルに比べて中身の蒸発が激しいボトルが多いところで、つまりガラスボトルでは見ただけで判別可能な経年による液面低下を直接的に知る手段がないということです。また、元のコルクはほとんどの場合で再使用が不可能なので、換えのコルクも用意しなくてはなりません。中身が空っぽだったことは流石にないものの、あれ?もうちょっとイケるかと思ったけど、もうないんだね?というボトルに出会ったことは少なからずあります。今回のボトルもまさにそういうボトルでした(笑)

しかし、こうした問題の解決に有効な名言がありますので、せっかくなのでご紹介します。「迷ったらどちらとも買え」

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